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副業は魔法少女ッ!

第4章 想いの迷い子


 格段に奇抜なホテルを選んだだけあって、ゆいか達のチェックインした個室は、真面目に愛を育むための隠れ家としては無駄が多く、奇抜だ。だがこの視界の五月蝿さに酩酊して、気分の上がる客達もいる。


「シャワー行こ、八神くん」

「おい」

「なずなちゃんは、高め合える相手じゃない。足引っ張られてばかりいる。八神くんが、そう話していたんだよね?」

「…………」


 すぐるの冷えた手の甲は、まるで彼自身の内側を物語っている。

 愛情が足りていない。癒えたいとも望んでいない。

 密会を重ねていく中で、ゆいかはすぐるに、なずなに通じるものを見出していた。自尊心の代名詞にも見えた男は、その実、大した自己肯定感も持たなければ、常に孤独に怯えていた。人の姿をとったがらんどうな青年は、俗的な成功体験を積んで初めて、自身の価値にしがみつける。


「あたしならすぐるくんを一人にしない。雇用主と付き合ってたくらいだよ。好きになったらずっと一緒にいなくちゃやってられない性分なの、想像つくでしょ」

「でもあいつは……」

「帰りが遅くなるのに連絡しない彼女なんて、結婚したら気苦労しかないよ」


 すぐるの指の隙間を埋めて、それを持ち上げて唇で触れる。

 もうひと押しだと確信した時、肩がバッグの振動を受けた。

 業務連絡かも知れない。そう断ってスマートフォンを抜き出すと、大量の通知が画面を覆い尽していた。

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