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副業は魔法少女ッ!

第4章 想いの迷い子



「帰ろっか、なずなちゃん」


 ワンテンポ遅れて頷いたなずなの顔に、久しく沈痛な影が落ちていた。控えめに、頼りなげに、だがゆいかに絶対的な信頼を向けていた一時期の彼女に比べれば、今はまるで別人だ。

 …──ウサギは、声帯を持たない。草は食い千切らない、丸い奥歯ですり潰す。

 彼女に似ている小動物の、どこかで聞いた生態が、不意にゆいかの頭を掠めた。



 冷え込んだ夜の人混みを歩きながら、ゆいかは安堵を噛み締めていた。
 今日、なずな達があすこで業務をこなしたことで、すぐると一線を越えなかった理由が出来た。ゆいかは彼に気持ちがないのではなく、魔法少女のやむを得ない仕事のために、後ろ髪を引かれる思いで、あのホテルを後にしたのだ。ゆいかが呼び出しに応じなければ、さっきのゲームセンターは、おそらく復旧工事で膨大な費用を負担することになっていた。いくらすぐるを奪うためでも、回復の固有魔法を持つ魔法少女として、あの現場を放っておいては良心が痛んでいただろう。

 そうして安堵している自分に苛立つ。

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