
副業は魔法少女ッ!
第5章 きららかな表皮にくるまれた残酷
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なつるからLINEが届いた。
話の文脈の見えない彼女からのメッセージに何度か受け答えしている内に、ゆいかは毎朝の電車に乗り損ねそうになった。
なつるが何か深刻な問題に直面したのは確かだ。夕方に話すと言いながら、なかなかLINEを打ち切らなかった彼女は、それだけ動転もしていたのか。
週明けの朝なのに既に木曜くらいの疲弊を背負って、何とか電車に駆け込むと、車両の端から男の怒声が響いた。
通勤、通学ラッシュの時間帯、車内はそこそこ混雑している。しかし休日の昼前、繁華街の方面へ向かう電車に比べれば、特に不自由ない程度だ。だのに件の罵声の男は、近くにいた若い男の会社員らが周囲に気を遣わず楽な姿勢で立っていると主張して、彼らを厳しく糾弾していた。
最もらしい理屈を並べて、何かに憑かれた形相で、怒りを発散させる人物。とりとめない日常に、前触れなく入る罅。…………
特に感慨もなかった。
耳の奥のつんとする、胸のつかえるような不快感も、ゆいかには押し寄せてこなくなっていた。
原因が明らかで、除去するのも困難ではないトラブルに、いちいち恐怖は覚えない。
次の停車駅で枯れ葉を拾って、ゆいかは車内に駆け戻った。
朝の満員電車で女が一人消えたところで、誰が気づくか。バックの持ち手でかしこまっていたマスコットから魔力を引き出してきて、魔法少女に姿を変えると、今しがたの枯れ葉を蛇の形状のロープに変えて、ゆっくりと、しゃがれた声の男の方へ向かわせた。黒い影の塊を捕らえて手繰り寄せる。咄嗟になつるの常套手段を模倣したのは、今朝、それだけ彼女と話していたということか。
