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副業は魔法少女ッ!

第5章 きららかな表皮にくるまれた残酷


 屋外では植物を自在に操るゆいかにとって、狭い車内で標的だけ静かに捕獲するというのは難題だった。

 ルシナメローゼの怨嗟の動作を静止しきるより早く、その黒い塊は体勢を変えて、ゆいかめがけて襲いかかった。





 初対面の会社員に罵詈雑言を浴びせた男は、近くにいた乗客の通報によって、途中の駅で降ろされた。
 自分が何をしていたか思い出せない。
 そうした男の言い分は、当然、厳重注意を受けて初めて我に返ったがゆえの言い訳だと第三者達は解釈したが、しらを切っているのにしてはあまりに筋が通っていた、というのが、現場の聞き込みに応じた車掌や乗客らの心象だ。
 電車の遅延は、客同士のトラブルだけが原因ではなかった。線路に投棄されていた異物によるタイヤのパンクだ。電車が急停車したはずみで、乗り合わせていた女が一人、気絶した。二十代前半と見られる彼女は意識の喪失とともにバッグの中身を散らしていて、乗客達が拾い集めた所持品から、彼女が有名なエステサロンの会社に勤務しているのが分かった。


「……それで本当ならここに連絡来るところが、あたしは病院に運ばれた。息をしてなかったから」

「心臓に悪いわ。営業課の子達が事故のこと話してるのを聞かなかったらと思うと」

「…………」

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