
副業は魔法少女ッ!
第5章 きららかな表皮にくるまれた残酷
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ルシナメローゼという島国は、超古代と呼ばれる時代、人々の無意識から生じた世界だ。
科学では証明出来ない。しかしながら、その存在が確認された事例は稀有ではない。
椿紗が少女に出逢ったのは、遥か昔、有史以前より途方もなく旧時だ。
当時、地上では、今にしてみれば考えられないほど、神仏が信じられていた。人々は、ことあるごとに祈りを捧げて、供物や生贄を神々に捧げた。彼らの純粋な信仰心は、不可思議な奇跡をいくつも起こした。中でも破格の奇跡を招いた人間が、いわゆる神職に就く。
文明も発展していない時代、世俗的な産物が霊的な気配を穢すようなこともなければ、この世のものざる者にとっても、存在しやすい環境だった。
そうした中、人々の祈りや願いは、本来なかったはずの世界を生んだ。彼らは夢の彼方に理想郷を思い描いて、争いや苦悩のないその楽園に羨望して、癒やされた。彼らの思い描いた世界は、いくら憧れても彼ら自身には不可侵だった。夢と現実の隔たりは除けないからだ。
前述の通り、人々はあくまで純粋だった。
ただし、人間の歴史というものに、感情的な摩擦や我欲はつきもので、彼らに苦悩は避けられなかった。苦悩が大きければ大きいほど、願いや信仰に伴う熱意はより増幅し、その情熱が、彼らの描いたルシナメローゼに命を吹き込んでいった。
ルシナメローゼは、人間の苦悩から生まれた生きた架空だ。
現実に苦悩が蔓延るほど、彼らの願いがルシナメローゼを活性化させた。
