
副業は魔法少女ッ!
第5章 きららかな表皮にくるまれた残酷
「あー、あっ、久し振りです!山川さんも、こっちに引っ越していたんですね!」
なずなが山川と呼んだ女は、塾教師をしているらしい。彼女と同じ地元を離れてきたのも、そのためだ。
幼少期からなずなを知る山川にとって、彼女は知り合いと呼ぶには水臭いほどの関係なのだろう。彼女の近況を聞きたがったり、すぐるを気にかけたりしている。
「そっか、なずなちゃん、大きくなったね。髪、思いっきり弾けてるじゃん。似合う。アルバイト先の人達とお出かけなんて、いいなぁ」
「山川さんは、職場の人達と出かけないの?」
「受験生の生徒を預かる職種上、そういうのはね……。そうだ、なんのバイト?皆さんお洒落ですよね?」
例のごとくゆいかが代わって、テレフォンオペレーターだと答えた。感心して頷く山川。
「ところでなずなちゃん、月末帰るでしょ」
「月末?あ、春休みか……」
「それもあるし、すぐるくんの──」
山川の他意ない声が、ある女の名前を出すや、天地が揺れた。いや、時空が裂けた感覚だった。
もとより彼女が口にしたのは、本当に女の名前だったか。ゆいかの中で、体験したばかりのはずの事実から、表皮が剥がれ落ちていく。輪郭がぼやけていく。初対面の塾教師が山川という名であったか、疑わしい。今朝からたった今にかけて、ゆいか達は、本当に休日の街を揃って散策していたのか。今自分達が立っているのは、もしや道端ではなかったりするか。
「うぇっ」
なずなが、ネジの外れた人形のようにくずおれた。ゆいかは間一髪で抱きとめる。寒気の影響を受けていると言っても、彼女は、コートごと冷たすぎた。
明珠となつるが、塾教師風の女に断って、この場は切り上げることにした。
ゆいかは彼女らに促されて、タクシーに手を挙げる。なずなを後部座席に乗り込ませると、確かに青くなって震えていた彼女は、けろりとした顔をしていた。
