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副業は魔法少女ッ!

第5章 きららかな表皮にくるまれた残酷


* * * * * *


 …──菫子ちゃん。


 なずなの旧知の山川は、そう言った。

 なつるにはその名前に覚えがある。その名前がなずなの耳に触れた途端、おそらく異変は起きた。


 不可思議な現象は、今日に始まったことではなかった。

 佐伯ゆづると共に逝ったひよりの最初の死の事実は、何故かなかったことになった。彼女の時間だけ逆行したのか、彼女以外の人間が虚実を覆されたか、彼女が生き返ったか、真相は明らかにならなかったが、最近もゆいかの件がある。通勤時刻の朝の電車で、ルシナメローゼの怨嗟に単身挑んだ彼女は、閉所が致命打になって大怪我をした。だがその事実は、他の事実に書き換えられた。

 それらの前例からすれば、さっきのなずなの発作は、また誰かの魔力の作用と考えられる。菫子という名前がなずなの耳に入ることを妨げたようなあの力は、おそらく山川を危険人物と見なして、なつる達を撤退させた。


「それにしても、強烈だった……。一色さん、心当たりある?」


 パウダールームでなつるが問うと、鏡に向かって真剣に化粧直しを進めていた副業仲間が、困憊した気色で首を横に振った。

 くすんだ白壁しかない空間に二人こもって、改めて、一色明珠という女のきらびやかさを目の当たりにした。周囲の何もかもが色褪せもして、輝きもする。はっきりした目鼻立ちに、飾り気ないミディアムの茶髪、アクセサリーで差し色を加えたモノトーンの装いは、嫌味のない上品さを引き立てている。
 地下街に入るや、なずなの付き添いはゆいかに任せて、なつるは明珠を連れ出してきた。たった数分間間近に目にしてみただけで、歳下ながら、ゆいかが彼女に夢中になるのに納得がいった。

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