
副業は魔法少女ッ!
第6章 幸福の血肉
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ゆいかが出社すると、場の空気がいつもと違った。
同じ部署の田中と松原が、中でも分かりやすかった。
日頃は打ち砕けた彼女らが、ゆいかの朝の挨拶に、ワンテンポもツーテンポも遅れて鸚鵡返しした。あからさまによそよそしい。
見えない違和感に挟まれていると、時の経過が遅く感じる。朝礼が終わって十五分ほど雑務をこなしただけで、既に二時間はデスクに座ったくらいの疲労感がゆいかを襲った。
その時、秘書課の社員が訪ねてきた。
明珠が社員にゆいかを呼びに寄越したのも、胸騒ぎに拍車をかけた。
席を外すことを承認して、笑顔でゆいかを送り出したのは田中だ。ただし、その笑顔はいかにも作り物で大袈裟だ。
「何か、あったんですか」
「存じかねます。社長も葉桐さんみたいなお顔をされていました。今朝、営業課の村田さんが訪ねてきてから、……」
秘書はそこで口を噤んだ。仮に状況を把握していても、彼女は明珠が話すまで、一切の漏洩はしないだろう。
ノックをして社長室の扉を開けると、存外に明るい笑顔がゆいかを迎えた。
「待ってた、ゆいか。呼んでごめんね」
「ううん。……えっと、用件って?」
ゆいかは黒目だけ動かして、室内を見回す。リゾート施設に関する問題であれば、他にも誰かいるはずだ。だが秘書も退室させられて、中は二人だけになった。
