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副業は魔法少女ッ!

第1章 アルバイトで魔法少女になれるご時世



「子供っぽいですよね。魔法や可愛い衣装で戦う女の子に憧れるって」

「全然。なずなちゃんなら、きっと天職」

「ただの憧れです。勉強は出来なくて、運動も、チームワークも得意じゃなくて……。今日行ったイベントで見せてもらった本に出てくる魔法少女達は、どうやってあんなピンチを切り抜けたり、ぶっつけ本番の戦闘で、起点を利かせられたりするんだろう。私なら、初戦で負けます」


 なずなの顔には、きっと彼女の心根に通じているものがある。アイカラーのグラデーションや頰骨を飾るチークの下に仕込んだラベンダーにしても、ゆいかの指に従順だ。
 薄ピンクで囲った目元の下瞼には、コンシーラーとラメライナーで強調した涙袋。シェーディングにはさり気ない赤を忍ばせて、彼女の自然な薔薇色の浮かんだ肌に合わせた。


 ゆいかがなずなにビューラーを持たせて鏡を向けると、彼女から息を飲んだ気配がした。


「すごいっ、ゆいかさんすごい……!」


 鏡を見入るなずなの目には、初めて自信ともとれるものが覗いていた。ゆいかを手放しに賛辞している。有り難うございます、と、繰り返す表情は、屈託ない感情を出し惜しまない。


「なずなちゃんの元がいいからだよ。睫毛だけは仕上げ、やってね」

「お世辞までお上手っ」

「本当だってば。あたし、嘘つくの下手だし」


 憑きものが取れたようなのは、ゆいかの方か。前触れなく未来の糸が途切れた四日前。それから今日まで、生きた心地を手放していた。

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