
副業は魔法少女ッ!
第6章 幸福の血肉
人の噂も七十五日というのは、当事者からしてみれば、無責任な気休め文句だ。
社員達は、必要以上に明珠に口を利かなくなった。ゆいかの部署も、女限定の飲み会に、魔法少女にだけ声がかからなくなった。
なつるや数人の魔法少女らは、見ず知らずの人間こそ、警戒すべきと考えている。何かの弾みに覚醒したルシナメローゼの元住人達は、魔法少女の気配を察知するや、無差別に罵倒や暴力に出る。逃げて交番に駆け込んでも、そこにいた警官がルシナメローゼに共感出来る身の上であれば、彼らは加害者の肩を持つ。
魔法少女が全くの丸腰でなかったのが、不幸中の幸いだ。
ゆいかと親しかった三人は、あからさまに無視を決め込んでいる。従って、明珠が仕事から手を離せない今日のような昼休み、ゆいかは食堂でお茶だけ頼んで、一人で弁当を食べていた。
「あのぅ、……」
遠慮がちな声が斜め後方から降りてきたのは、突然だった。
同世代くらいの派手な女が、緊張した面持ちで、ゆいかに視線を下ろしていた。
「やっぱり葉桐さんだぁっ、いきなり話しかけてお邪魔でしたか?綺麗な人だなって、たまに見かける度、密かに尊敬していて……」
女の吐露した他意ない好意を、ゆいかは自然に受け取れた。絵描きが作品に称賛を浴びせられるのと同様に、ゆいかも化粧に興味を持つようになって以来、今のように話しかけられることは屡々あった。特に代表取締役という地位の恋人を持ってからは、それだけで社員らの注目を集める理由がゆいかに付属している。
