
副業は魔法少女ッ!
第6章 幸福の血肉
「有り難うございます。えっと、……」
「あ、申し遅れました。葉桐さんは、私のことご存じなくて当然です。佐竹みおです。ここのキッチンで働いています。今日は早上がりで、せっかくのチャンスにお話ししたいなと思って……」
帰り支度も済ませたあとの様子の佐竹は、出勤して帰るだけにしては、随分めかしこんでいた。この会社では珍しくない。
「佐竹さん、ですか。有り難うございます。佐竹さんこそ、すごくお綺麗じゃないですか。もしかして今からおデートとか?」
「いえいえっ、ただの早上がりです。映画でも観に行こうかなと。葉桐さんみたいに、リアル充実したいんですけど──…」
佐竹がはにかんだ時、ゆいかは、肌がひりつくような視線を感じた。
「……仲間でしょう。恋人の振りして一緒にいれば、そりゃあ怪しまれないわ」
「騙されてたよね。あの顔で社長の気持ちを射止めたんだと勘違いしていたけど……だいたいあの外見だって、魔法でどうにでも出来たんでしょ」
「私なんてお肌だけでお給料ほとんど使ってるのに。やだー、努力しなくて済むなら詐欺魔法にでも縋りたくなる」
「だいたい、あの人、仕事出来るの?ほんとムカつく」
「…………」
ねっとりとしたささめきは、佐竹にまでは聞こえない程度だ。現実離れした彼女らの話は、もし断片的に聞き取れても、アニメか何かの話題としか解釈出来ない。
「葉桐、さん……?」
佐竹の目が、ゆいかを窺う。病人を心配してでもいる顔だ。
「何でもない……」
「そうですか?」
「…………」
社員達は明珠を敵に回しまでしない。
ゆいかは別だ。
悪意を向けたところでしっぺ返しを食らわないような魔法少女は、迫害しやすい。なずなの方は、学校で同級生のいじめにまで遭っている。
