
副業は魔法少女ッ!
第6章 幸福の血肉
春の装いが目を引く雑踏が覗けるレストランの窓際で、なずなはなつるにここ数日の出来事を報告していた。
なつるは、いつもなずなの話を聞いてくれる一方だ。彼女の話も聞くべきだ、彼女のことも知りたい。そうした思いがなずなを歯痒くさせるも、結局、心地良いところで相槌を打ったり頷いたりしながら聞き手に徹する彼女に甘える。彼女は、どうあってもなずなを否定しない。
このところ、なずなは人の優しさによく触れる。ルシナメローゼの元住人達が現れて以来、しょっちゅう理不尽な目に合うのに、安心して外を歩けなくなって、初めて世界の明るさが見えた。すぐるの想いや弱さを知った。なずなが怪我を負う度に、ゆいかは面倒な顔一つしないで、治癒してくれる。本当にそんなこと出来るはずないのに、二十四時間ボディガードすると言って、なずなを帰したがらなかったこともある。
オムライスのとろとろの卵を平らげていると、なつるがじっとなずなを見ていた。
「あ、どんくさくてごめんなさい」
「違うってば。美味しそうに食べてて可愛いって、見てただけ」
「なつるさんは、優雅に召し上がっていました」
「有り難う。気にしないで食べてて。そうだ、デザートいる?奢るよ」
「いいんですかぁ?」
最後の一口を咀嚼しながら、なずなはメニューを広げた。
この時、可憐できらびやかなケーキやパフェの写真を眺めて舞い上がらなければ良かったと思う。なずなは、店員の中にルシナメローゼの元住人が紛れている可能性を考えなかった。なつるもこんなところで予知の力は使わない。
天使の衣装をまとったような、白いレアチーズケーキを頼んだなずなのテーブルに、店員は同じそれを二皿持ってきた。今日はあまり出なくて、美人なお客さん達にサービスです。店員の口説き文句を鵜呑みにして、二皿運ばれてきたレアチーズケーキの片方は、なつるが食べた。店を出て駐車場に向かっていた時、突然、激しい睡魔がなずなを襲った。
