
副業は魔法少女ッ!
第6章 幸福の血肉
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あの子じゃなくて、いなくなるならあいつの方が、まだ良かった。
思いがけず盗み聞いた父親の本音は、幼かったすぐるに呪いをかけた。
両親の笑った顔を知らない。彼らは互いを疎んでいるわけではなかった。むしろ共通の厄介者に憎悪を向ける同志だった。同時に悲しみという感情の奴隷でもあった彼らは、不幸な家庭を抜け出すための出口も持ち合わせていなかった。
彼らがせめて心を壊さないよう行使したのが、暴力だった。血の繋がったすぐるを罵って、蔑んで、世間体を守るだけの衣食住や教育は与えていた一方で、望んで産み落としたはずの息子を家族の一員と認めなかった。彼らの暴力は精神面にとどまらなかった。頭脳だけが取り柄の彼らのどこにそんな力があったのか、すぐるは頭を悩ませたし、何より自分の生命の危機を感じるほどの肉体的恐怖に慄いた。
それでも学校に行けば、すぐるの学生生活は過不級なかった。いや、抜きん出て優秀な成績を打ち出していたすぐるは、学友達に一目置かれて、教師らからも好まれていた。
幼馴染のなずなとは、周りが羨むような時間を過ごした。同世代の男子ら曰く、すぐる達はませていたらしい。勉強はどこででも出来る。すぐるは、どちらかと言えばなずなに会うために学校に通っていたのではないか。物心ついた頃から優しくおおらかだった彼女は、周囲からはぼうっとしている少女に見られがちだった。彼女の両親も例に漏れず、娘を落ちこぼれと見なしていた。
