
副業は魔法少女ッ!
第6章 幸福の血肉
「嘘だろ……おい……う"っ……あぁぁあああ……っっ」
大切にしている指輪が盗られたなずなを、なつるが慰めている。犯人の目星はついていて、通報に向けてゆいか達が証拠を掴もうとしているところだ。…………
混濁した意識の向こうに、事情を説明しているような明珠の声が聞こえる。内容など入ってこない。
左手薬指に馴染んだ指輪を、すぐるはなずなに贈った覚えがない。だが彼女が肌身離さずつけていても不快は覚えなかったし、昔から、そうしていなければいけない気がしていた。その石がどんな色をしていたかも思い出せない。
孤独にならない努力に塗り固めた十代だった。成人して、勉学と同じくらい注力してきた人脈が功を奏して、誰より早く就職先も決まった。このまま励み続ければ、会社員にはとどまらない、誰もが認める地位にのし上がれるだろう。一見して明るいその未来に到達したすぐるの隣に、なずなはいるのか。
女の分際で、地位も名誉も、愛まで欲しいままにしている人間の前に跪いて、すぐるは泣いた。自尊心も擲って。
「なずな……に、捨てられる……俺が何をした、親にもあいつにも、俺はどうせ必要じゃない……!」
頭上で、布のこすれる音が聞こえた。膝を下ろす明珠の気配がすぐるをやおら包んだ時、彼女のスマートフォンが鳴った。
「はい。…………」
痛む喉から嗚咽を吐き出しながら、すぐるが滲んだ視界を凝らすと、彼女の顔がこわばっていた。
「なずなちゃんが?……ゆいかっ、ゆいかは?!」
「っ、……おい、……」
そこで通話は切れたという。
デジャヴらしい感覚が、すぐるの胸を騒がせる。
