
副業は魔法少女ッ!
第6章 幸福の血肉
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変身して戦うヒロインは、幼少期、特に女児なら、一度は親しむ。
なずなも例に漏れなかった。
幼稚園に通うようになったなずなの家では、毎朝、思春期の少女達が強大な敵に立ち向かったり、仲間と絆を深めたり、淡い恋に一喜一憂したりする、幼い子供からすれば未知の憧れを描いたような映像が、リビングのテレビに流れていた。なかなか起きず、しょっちゅう寝具でぐずっていた娘のために、両親がそうしていたらしい。
朝食を食べながら、夢中になって観ていた魔法少女の物語。続きが気になって、送迎のバスの到着を疎ましく思うほどには気に入っていたそのアニメのタイトルは、すぐ忘れた。幼少期に見たフィクションは、結局、なずなの中に深い印象を刻まなかった。
それよりなずなは、自我の芽生えとともに、近所の同世代の子供達と遊ぶ時間の方が貴重になった。
八神すぐるという少年と、彼の二歳上の姉、菫子。
菫子ちゃん、と呼んで、なずなは彼女を慕っていた。彼女に構って欲しいばかりに、すぐるを友人と認めてやっていたようなものだ。
面倒見の良かった菫子は、遊び盛りの小学生時代のほとんどを、なずなとすぐるに費やしてくれた。一方で、学校行事で遠目に見かける彼女の周りは、常に大勢の友人達がいた。
両親を始め、身内に何かで褒められたことのなかったなずなは、菫子とすぐるが羨ましかった。菫子の両親は彼女を自慢の娘だと常に豪語していたし、すぐるも当時から勉強が出来た。八神家が家族円満だったのは、想像に難くなかった。
