
副業は魔法少女ッ!
第6章 幸福の血肉
民家の中は、むせるほどの瘴気が充満していた。
長い歳月を経て蓄積していったのではない。魔法少女の経験もない人間であれば、とっくに正気を破壊されていただろう毒に侵食された空気は、昨日今日で生じたものと考えられる。
なつるでさえ招かれたことのなかったという椿紗の自宅で、ゆいかが知ったのは、八神菫子という名の魔法少女の存在だ。
七年前、怨嗟の呪で殉職した魔法少女。
彼女の遺体は回収された。だが、スピリットジュエリーは見つからなかった。
「何故、見つからなかったのか分かった。この子が持っていたからよ。ピンクちゃんの大切にしていた指輪の青い石。それが八神さんだった。私達のものになるべき石」
椿紗は、なずなを吸った彼女の指輪を見つめていた。
不思議な透明感を湛えていた青い石は、人ならざる気体に変わった持ち主と一体化して、より美しく煌めいている。
なずなは、例の指輪の出どころを知らなかった。いつから、どのような経緯で肌身離さず身につけるようになったかも忘れていたし、彼女から八神すぐるの姉の話が出たこともなかった。菫子の存在自体が、彼女らの中から消えていた。
椿紗の話が事実なら、いくつか辻褄は合う。
菫子のスピリットジュエリーが、椿紗にも感知出来ない石ころになっていたのも、なずな自身に魔力が移動していたからだ。だからこそさっき椿紗が力を加えたことで、石は本来の成分を取り戻すようにして、なずなごと回収した。
