
副業は魔法少女ッ!
第7章 私だけが独りだった
明珠がなつると予定していたすぐるを交えての話し合いは、数時間、見送ることになった。彼の父親が、いきなり息子を呼んだのだ。
彼らの家は、あの通りだ。
大学は春季休暇に入っていたが、行事の手伝いで登校していることもあるというすぐるの思いつきから、父親とはその近くで会うことになった。
「本当にすまなかった。菫子を亡くして、それでも生きていくために、仕事も気を抜くわけにはいかない。母さんと父さんは、お前に八つ当たりしていたよ。その……、親を名乗る資格もないよな?お前にとっては、一生の心の傷だよな?」
明珠はなつると、離れた席からすぐる達の会話を拾っていた。
間欠的に聞こえる八年来の父子の会話は、行方知れずだったガラス細工が奇跡的に見付かりでもした風な、かけがえなさと僅かな気後れが葛藤している。
すぐると、そして五十代半ばと見られる男は、互いを細めた目で見つめて、思い遣りに満ちた言葉をかけ合っている。その実、彼らは、おそらく怨嗟が憑いていた期間の記憶が断片的に抜け落ちている。すぐるは虐待を受けていた事実、そしてなずなを同じ目に遭わせていた事実しか覚えていないし、この先、時間の経過が更に彼から呪いの名残りを切り離していく。彼と違って自覚もなかった父親は、既に狐につままれた程度の認識だろう。
それでも典型的な父親を気取る男は、幸福な家庭を築いてきた人間の顔だ。
なずなは元気にしているか、仲良く暮らせているか。飯はしっかり食えているか。
すぐるの方も、それまで受けてきた仕打ちを水に流すつもりの態度で、彼の質問に答えている。
