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副業は魔法少女ッ!

第1章 アルバイトで魔法少女になれるご時世


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 なずなが戻ると、すぐるは機嫌を直していた。教員を気取った明珠の嫌味も耳に入らない有り様で、家を飛び出した時はまるでぼろ雑巾だったなずなより、彼の方が雨に撃たれた仔猫のようだった。


 逃げるほど怖がらせてごめん、見捨てないで。


 年頃の男にしてはやはり細い腕の中で、なずなは今しがた帰っていった目鼻立ちの強い女と、彼女の恋人を思い起こす。

 ゆいか達には、他人にまで同情出来る余裕がある。なずならの抱える問題など、一生かかっても理解出来まい。社内での様子は知らないが、少なくとも私的な場所では対等で、その関係は、喩えるなら綺麗な砂糖菓子。明珠が戻るまでの間、なずなはゆいかと随分話し込んだが、彼女がそこはかとなく滲ませていた自己愛も、類稀な容姿だけが根拠ではないだろう。


 あとになって悔いても遅い。時間は自分のためにある。


 なずなは、ゆいかに諭された。

 頭で飲み込むのは容易い。ゆいかは明珠に一切の不満がなく、従って彼女への熱意を何の迷いもなく口にしてた。それに引き換え、なずなはすぐるに、一つのわだかまりもないと言えるか。



「好きな人の全部を好きだと言えないと、それって好きじゃないってことでしょうか」



 どうすれば笑顔の絶えない恋愛が出来るのか。相手の機嫌を伺うばかりが、愛されるための努力なのか。


 翌日、なずなはゆいかに相談した。

 交換したLINEのIDに、彼女からの連絡を受けてから待ち合わせまで、とんとん拍子に話が進んだのである。

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