
副業は魔法少女ッ!
第1章 アルバイトで魔法少女になれるご時世
朝、ゆいかは熱っぽさと皮下の痒みに血の気が引いた。風邪の可能性を考えて、念のため病院に寄ってから出社したゆいかに、社員らは腫れ物でも扱う具合に接した。
結果から言えば、人に感染るものではなかった。幼少期に入院を経験したゆいかには覚えのある症状だったが、未だ誰かに打ち明けられるだけの気持ちの整理がつかない。ただ、明珠のリゾートホテル建設を始め、仕事をいくつか受け持っている。可能な範囲でひと区切りを目指したり、引き継ぎの準備を進めたり、鬱屈とした気分を紛らわせられるだけの業務はある。
「ゆいちゃん、少し休んだら?私達もさっきお茶してきたし、明園さんと香川さんも、三人で何か飲んできなさい」
この部署では最も長い田中真吹が、ゆいかに小銭入れを渡してきた。
「…………」
免疫力が落ちている。病巣が広がりやすくなっているから、安静にしておくこと。
努めて良心的な言葉選びをしようとする医師の話を、ゆいかはほとんど聞き取れなかった。忠告に従っても回復の見込みがないのであれば、優先事項は他にある。
従って田中の厚意を受けたのは、先月入ってきたばかりの明園達への負い目からだ。
