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副業は魔法少女ッ!

第7章 私だけが独りだった




 現実世界を救えば、ルシナメローゼは消える。ルシナメローゼを救えば、現実世界は負の感情に乗っ取られる。それに、たとえ今ルシナメローゼを壊滅させても、数年後、或いは数十年後、またどうしようもなく人間達が打ちのめされれば、彼らの嘆き、祈りが、新たな架空の国を生む可能性もある。

 対処の手がかりを探りに行くと言い出したなつるが、ゆいかを同伴に指名した。


 昼とも夕方ともつかない空、季節を感じられない自然の風景。

 一面をくすんだ青と緑が覆ったここは、理想郷だったかつて、天国のような土地だったのだろう。

 遠くに公園が見えた。パラソル付きのテーブル席で茶話に興じる数人が、目に涙を浮かべて再会を喜び合っている。中には抱擁を交わす姿もあって、簡易遊具の周りを駆け回る少女達もいた。


「私達にも前世はあったのかな」


 つと足を止めたなつるがゆいかに話しかけてきた。


「もし記憶があったら、今の人生より大事だって、思ったりしてたかな」

「…………」


 どんな人生だったかによる。

 見えかけた回答を口にしかけたゆいかは、しかし返事を見送った。
 自分は自分でしかない。大切な家族、大好きな友達、愛する人。…………
 彼女らと前世でも繋がっていたのだとしたら、かけがえない生涯だったのだと思う。だが、それは今が愛おしいからだ。過ぎた時代への恋しさにならない。

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