
副業は魔法少女ッ!
第1章 アルバイトで魔法少女になれるご時世
エントランスの自動販売機で明園達が飲み物を選ぶ間に、ゆいかはなずなに連絡した。それから、今日だけで何度スクロールしたか思い出せないデータフォルダをまた開く。
明珠とともに眺めた光景、見たもの、食べたもの。…………
どれも昨日のことのようなのに、この七ヶ月間はどれも遠い。昨日の夜景も、創作料理を頬張る明珠も、もうゆいかのものではないのだ。
不安や孤独が度を増せば、怨嗟に昇華するらしい。自動のガラス扉を突き抜けてくる空の光とは真逆の色が、ゆいかの自我を蝕んでいく。
明珠は今日も残業だ。だから余計に、なずなの顔が見たくなった。
かくて夕方、一日振りに、ゆいかの前に小柄な少女が現れた。濃淡のあるピンク髪を二つに結って、やはりハートの透かし編みの入った桜色のカーディガン、ホイップケーキを彷彿とするブラウスに、薔薇と苺柄のフレアスカート。膨張色をこれでもかと言わんばかりに取り入れながら、とても二十一歳とは思えない、胸が詰まるほど彼女は小さい。
「八神すぐると一緒にいて、幸せじゃないの?」
日没近い時間帯らしく人通りの多いカフェの窓辺で、ゆいかはミルクティーを啜っていた。その間、なずなに聞かされたのはすぐるの話だ。おおむね昨夜と同じ内容だ。今日はアルバイトのため、帰宅が遅れても彼には知られないという。
「幸せです。でも、……」
黒い感情の足音が、ゆいか自身にまた忍び寄る。
なずなも、その他大勢の人間と同じだ。有り余る時間を見せびらかして、これ見よがしにゆいかの前で浪費する。
