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副業は魔法少女ッ!

第8章 正義の味方のいないご時世



 魔法少女になって、生まれて初めて、なずなは社会のためになれる喜びを知った。人との繋がりも広がった。結果的に、すぐるとも仲直り出来た。彼がなずなに浴びせていた暴言は、彼の本心ではなかったし、怨嗟の影響を解放されてから今日までの彼は、毎朝、毎晩、身に余るほどの言葉をくれる。もうフリルやリボンの付いた洋服で装っていても、顔をしかめなくなった。

 そんなすぐるの両親は、昔からなずなをよく知っている。友穂や美波は、両家揃った食事会を面接や会議ほど堅苦しいものとして話すことがあるが、なずなは気取らない。すぐる曰く、髪もピンク色の方が、待ち合わせた時、見つけやすくて好ましいという。
 かくてなずなは、今日もAngelic Prettyから出たばかりの春服に袖を通していた。夏まで着用出来そうな、ウサギモチーフのコスメ柄。パニエを仕込むと思いっきり膨らむのに、着心地はすこぶる軽やかだ。淡いピンク色のシフォン生地が、なずなを、いつになく優しい気持ちに誘う。


 もし今朝もゆいかと朝を迎えていたら、と思う。きっと、この洋服がもっと引き立つ化粧を施してくれていただろう。髪もなずなが自分で結ったツインテールではなく、ひと手間加えてくれていた。


 すぐるとの仲が修復出来て以来、ゆいかと会うこと自体が減った。

 懐かしさに引きずられていったなずなの意識を、父親の声が呼び戻した。

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