
副業は魔法少女ッ!
第8章 正義の味方のいないご時世
「おい」
「あ、お父さん。……ん?」
「お前、八神さんが話しかけてるのに、ボーッとして。どうした」
「ごめんなさい、何ですか?」
「何、じゃないわよ。昔からぼんやりしてばかり。ごめんなさいね、八神さん。ウチの子、すぐるくんと違ってバカだから」
久し振りに顔を合わせた両親は、娘に笑顔の一つも向けない。愛されていないのではない。なずなが頼りなかった分、気を張らせてばかりいた。彼らの厳しい過保護には、感謝こそしても不平はない。
「いいんですよ、天方さん。なずなちゃんを怒らないであげて下さい。女の子は、少しくらいふわふわしていた方が可愛いですもの」
「なずなちゃん、いつ嫁に来るんだ?って話をしてたんだ。すぐるはいい会社に入ってくれたからな、うんと贅沢させてもらえよ」
「はい、有り難うございます。えっと……」
「八神さんがご迷惑でなければ、年内でもウチは構いませんわ。お互いまだこんな歳で、おばあちゃんおじいちゃんになってしまうのも、不思議な気持ちがしますけど」
「孫はすぐるくんに似て欲しい。ウチのに似たら、八神さんに向ける顔がなくなります」
「あの、お義父さん、お義母さ──…」
ガラッ。
すぐるが何か言いかけた時、扉が開いた。
なずな達がいたのは、和式の個室だ。隣も客の気配があったが、個室と個室を隔てているのは襖で、廊下に繋がる出入り口は障子だ。誤って隣の客間を開く可能性は、まずない。
