
副業は魔法少女ッ!
第8章 正義の味方のいないご時世
母親の悲鳴を遮って、なつるがなずなの手をとった。彼女が音もなく膝をつく。
映画のワンシーンかどこかで、よく似た光景を見たことがある。貴公子の格好をした役者が、相手役の令嬢に跪いて、こうして片手をとっていた。あのあとは、どうなったのだったか。
「突然、ごめんね。貴女を諦めたら後悔するって、来ちゃった。後輩じゃなくなって一年経っても、なずなちゃんの他に誰も目に入らない。この先もずっと」
「なつるさん……」
「八神くんの分まで、私がなずなちゃんの味方になる。幸せにする。大好きって、言い続ける」
下側に向けたなずなの手に、柔らかでくすぐったい感触が触れた。それがなつるのキスと分かるや、なずなは彼女に手を引かれて、個室を飛び出していた。
ストラップシューズを履くのも忘れて。
ルシナメローゼが消えた日、ゆいかの病が再発した。
初めは魔力の反動かと思った。だが現実は、いつかなずなが友穂達に連れられて行った、創作イベントに並んでいた本の世界とは違う。魔法少女は有限の魔力を使いきれば、生身の人間に戻るだけだ。寿命を延ばした魔法少女は、退職して魔力が尽きれば、対価はなかったことになる。対価のために吸い上げられた相手の寿命は、吸い上げられたままなのに。
明珠の企画していたリゾート施設は、海の近くの静かな都市に開業した。まだ建設中の区画をいくらか残しながらも、先月、プレオープンを記念するセレモニーの中継を、なずなもテレビから見た。彼女の隣には、秘書と名乗る女が控えていた。整った顔立ちに、ひと目で美意識を確信する佇まい。だが、ゆいかには劣る。彼女の隣に立っていても、あの秘書では違和感があった。
