
副業は魔法少女ッ!
第8章 正義の味方のいないご時世
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愛する人の手がけたリゾート施設は、まるで地上の楽園だ。
南国の避暑地を想起させられる外観は、自然由来の華があって、敷地内は、少女心をくすぐられるディテールが目を惹く。上質な癒やしが存分に提供される宿泊施設で、美を求めてきた客達が、より輝いて帰っていく。…………
理想郷が実在すれば、ここのような場所を指すのだろう。特に、随所に見られる経営者のこだわりは、ゆいかがこの施設に恍惚とする重要点だ。
記念セレモニーから、数日が経った。当面の本社との業務はリモートに決めた明珠とスイートルームの一室を借りて、ゆいかは毎日、賓客や取材に応じる彼女を遠目に見たり、僅かなプライベートを共有したりしていた。
この施設が大々的に宣伝されて、元々有名だった明珠の顔は、より広がった。彼女目当ての宿泊客も珍しくなく、写真やサインを求められると、彼女は真摯に対応する。今日も、エステティシャンの一人が相談を持ちかけてきたのを皮切りに、昼間は会議、夕方は製薬会社との打ち合わせと、結局、戻ってきたのは日没後だ。それだけ忙殺されていて、ゆいかに昼食のアフタヌーンティーセットを運ばせることを忘れない。本人は水も飲んでいないのではと思うと、雑用くらい言いつけて欲しい。
