
副業は魔法少女ッ!
第1章 アルバイトで魔法少女になれるご時世
「ゆいかさん?!」
昼間は引いていた痒みまで、身体の随所が訴え出す。パフェスプーンをグラスに戻して、ゆいかはソファに両手をついた。
「はぁっ、……生理……お手洗い……」
声が思う通りに出ない。もとよりこの席から手洗い場までの距離を見ると、気が遠くなる。
「そうだ、痛み止め持ってます。効けばいいんですけど──…」
ファスナーの音に被さって、男の興奮した声が響いた。それを宥める女達の声が続いて、彼らに連れられてきたらしい幼児達の黄色い声が、ゆいかの頭を刺戟する。
「殴るぞお前!!お前もだ、わしがおかしいことを言ってるか?!返事しろや」
「お父さん、また怒って。お店の人達に迷惑だから……」
「んだと、もういっぺん言ってみろ!」
男のがなり声が嵩じるにつれて、しゃがれ具合から、さばかり高齢であることが分かった。彼らの近くのテーブルにいた客達は次々と席を立っていき、店員達も、周辺を避けて通っている。
自分達は何も見えていない、聞こえていないと言わんばかりに、いっそう談笑に興じる客達。教師が強めの説教をしたあとの小学校の教室にいる児童らのように、しずしずと俯く客達。
なずなはどちらの種類の人間か。どちらにも相当しなかった。
