
副業は魔法少女ッ!
第1章 アルバイトで魔法少女になれるご時世
「先週の……!」
「久し振り。あの時は、無神経を言ってごめんなさい。通りすがりの貴女を放っておけなくて。押しつけ商売はしない。死にたくなければ、十秒だけ、私を心から信頼して」
「──……」
憑きものが取れていくようだ。あの夕刻、不吉な情緒と戯れていた女の手が、ゆいかに生気を与えていく。
その手を握り返しているだけで、何十年もの先の未来を当たり前に確信していた頃に戻れる気がしてくる。どこも痛まない、立って背筋を伸ばしていても、違和感がない。
「そちらのロリィタちゃんも」
女がなずなに目線を合わせて、彼女にも同じことをした。それから、大丈夫、と呟くと、彼女の焦点が定まったのが分かった。
白熱灯の下で見ると、女の胸の位置より長い髪は、ゆいかの記憶より明るかった。茜色の空を背負っていた時より俗世に近い、どこにでもいる感じの彼女は、ともすればゆいかが顔を一致させられたこと自体が奇跡だ。
ともかく彼女の何かしらの特技が功を奏して、ゆいかは、例の家族達の言葉も親しんだ言語として認識出来るようになったらしい。
「有り難うございます、貴女のお陰ですか?」
「あとで説明する。先に、私の用事を済ませるわ」
名乗り合う余裕もないと言わんばかりに、女がガラスペンを握った。彼女のシフォンを重ねた黒いフレアスカートに忍ばせてあったらしいそれが、明かりを吸って、きらきらと別の何かに還元していく。煙ともオーロラともつかないそれは、彼女自身を飲み込んだ。
