テキストサイズ

副業は魔法少女ッ!

第1章 アルバイトで魔法少女になれるご時世






「勘違いしちゃいますよぉ」


 なずなの甘えた調子の声に、はっとした。

 
 ゆいかは、彼女の丸襟のレースの陰に指を置いて、上下する胸に目を細めていた。


「あれ?何してたんだろ……──ひゃっ」

「あっ」


 お冷と熱を失くしたロイヤルミルクティー、そして半分ほど手の付いた苺パフェの並んだテーブルを、一陣の風が吹き抜けていった。

 ゆいかは、頬にかかかった後ろ髪を耳にかけ直す。濡れナプキンの空袋まで、今の風で飛ばされていた。


「私も、何か話していましたっけ……」


 既視感がある。

 すこぶる自我の強い格好のなずなは、そのくせ存在感は透明に近い。背丈や体格の問題ではない、ただ小さい彼女に胸が迫る思いがしながら、店に入ってから今まで、ゆいかは彼女の恋愛相談ばかり聞かされていた。
 そして、食傷したのだった。八神すぐるという男の人格に。なずなは他の人間を見るべきだと、お節介な魔が差した。

 そうした自身の行動を振り返る途中、ゆいかはまた不可解な点に気付く。


 皮下の痒みや熱っぽさもなくなっている。
 

「そう言えば私、何で泣いてたんでしたっけ」

「え?」


 なずなの顔を改めて見て、どきりとした。昨日と同じ、綺麗に化粧されていたはずの白い顔が、雨の落ちたすりガラスのように、地肌を覗かせていた。

 泣くほど拒絶されたのか。…………

ストーリーメニュー

TOPTOPへ