
副業は魔法少女ッ!
第1章 アルバイトで魔法少女になれるご時世
「宇宙人にさらわれた人は、その間の記憶を失くすと、聞いたことがあります」
つと、なずなが突拍子もない話題を挙げた。
それが、ゆいかに胸を撫で下ろさせた。
あるパズルのピースが欠落しているのに、周囲は誰も目を向けない。初めからそうであったとして振る舞っている。そうした中、同じ違和感に目を留めた同志がいた。
それと同じ感覚だ。
「なずなちゃんもあたしも、何か忘れてる?」
「お待たせ。ああ、やっと静かになった。ふぅん、いいおじいちゃんだったんだ」
ゆいか達の真横から、第三者の声がした。しとやかで、それでいて芯のある女の声を知っている。
「あっ、貴女……!」
そこにいたのは、先週ゆいかの前に死神のごとく現れた女だ。今となっては恩人か。
「…………」
未来予知能力を自負する女は、例の高齢の男を遠目に見ていた。いつの間にか帰り支度を済ませて、家族に決まり悪そうに笑ったり、店員に世間話を振ったりしながら、会計を進めている。
女の姿は変貌していた。
長く明るい茶髪はサイドを残したシニヨンにまとめて、着ているものは、肌を出して初めて蠱惑的と分かった身体の線を、出し惜しみなく強調している。赤いビスチェに羽衣とも見えるボレロ、薄紫の巻きスカートはほぼ透けていて、突き出た臀部を辛うじて隠す皮パンツからは、網タイツの脚がすらりと伸びる。広い腰によく極立つウエストには、何重かに巻かれた鎖。その先端を手首に巻きつけて、しゃらしゃらともてあそびながら、彼女がゆいかの隣に腰を下ろした。
彼女が、ともすればゆいか達と待ち合わせでもしていた顔で、メニュー表を開いた。
