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副業は魔法少女ッ!

第3章 ガラスの靴の正体は






 恋人に何を求めるか、明珠と話題にしたことがある。

 明るい人、正直な人、話しやすい人、気の合う人──…。

 ゆいかの思い付いたのは、思春期を振り返っただけの少女らしい理想ばかりで、当時好感が持てた人物も、それらを満たした場合が多かった。

 明珠の方は、三十二年という人生で、五人前後の女や男と交際していた。五人前後という不正確な人数や、女や男という曖昧さは、それだけ世間が彼女にとって自由なものであった証だ。

 ゆいか以上に浮いた話の引き出しを持つ彼女の理想は、明確だった。美形が好きだの歌の上手さも求めたいだの、エスコートの上手い相手は楽しいだの、それらはゆいか自身にも当て嵌まるか怪しいもので、一抹の不安を覚えていると、妄想だけどねと、挙げたばかりの項目を彼女はなかったことにした。


 ホテルの事業が実現したら、一緒に暮らそう。


 プロポーズと取れる未来を彼女がゆいかに語ったのは、つまるところ空想を目的としたような話題に花を咲かせた数日後のことだった。

 それに似通う告白を、彼女が過去の五人前後に向けたことがあるかを、ゆいかは知らない。

 空想の可能性を考えられなかったのは、常にゆいかが、それだけ彼女に酩酊しているからだ。彼女との時間はゆいかの血肉を満たして、他のあらゆるものに目を向けるだけの余裕を奪う。

 ゆいかの興味をそそったきっかけこそ彼女の容姿でも、仮に同じ姿の双子がいたとして、同じ感情はいだかない。

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