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ほしとたいようの診察室

第9章 ひとときの外出





陽太先生は、箸を拾うと立ち上がる。



何も言わずにキッチンへ向かって、箸を洗い直す。その水音を聞いていた。蛇口を閉める小さな音までもが、耳に届く。


痛いくらい、耳に刺さるように。


何も言うことができなかった。

フォークを持ち直すことも、ましてや目の前のご飯を口に運ぶこともできない。

この一言で、関係に大きな変化が生まれることはわかっていた。それなのに言わずにいられなかった自分がいる。



隣にいる、すぐそばにいる陽太先生に、もっと触れたいと思ってしまったのだ。

その大きな手や、優しい背中にではない。




いつもそばにいる、その心に触れたかった。


大きくて温かくて、いつも、誰よりもそばにいてくれる心に、触れてみたいと思ってしまった。





思わず手を、伸ばしてしまった。



禁断の果実に手を伸ばすように。








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