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戦場のミハイル

第1章 辺境の村、その集落に未来はない

ムスリュノボ村は小麦の生産を主体としたのどかな村だ

昔は一大農業地域として活気があったが

全世界に巻き起こった天災〈カタストロフィ〉により壊滅

その後も残された人々が細々と暮らしていたが、どんどん村の人数は減っていった


ミハイル・グリンカはこの村で生まれ育った15歳

父と兄は徴兵されて何年も帰ってきていない

村のほとんどの男性は戦場へ駆り出されていた

ミハイルも16の歳を迎えると徴兵されるだろう


残る男手は老人たちと小さな幼子たち

ミハイルは少年ながらにこの村では唯一の「働き手」だ


いや、隣の村もそのまた向こうの村もすでに働き手はおらず、この辺境の地域ではミハイルだけなのかもしれない


過疎


いつかこの村も、隣の村も無くなってしまうのだろうか


ミハイルは小麦の圃場周りの除草作業をしながら、もうひとりでは限界だな、と思った


シュィィィーーーン


静かなバッテリータイプの刈払機が周りの雑草を刈り取っていく

安定性に問題のあった旧時代のリチウムイオンと違って、この時代一般的となっているソリッドステートバッテリーは小さいながらに抜群のパワーだ

だが高額なため替えのバッテリーを買い足せず、半日もすると作業を中断せざるを得なかった


「やっぱりボクにはこっちだな」


ミハイルは荷台から骨董品レベルの道具を出してきた

2サイクルエンジンの刈払機

祖父から譲り受けたものだが、まだまだ現役だ


ハンドル手元のスイッチをオンにして、プライミングポンプを数回押す

燃料をキャブレターまで手動でまわすとチョークを閉める

「……さてと」


ミハイルは一度深呼吸してリコイルロープに指を引っ掛けた


軽めにロープを引く

エンジンに変化は無い

改めてロープを数回引く

ドゥルッ


初爆があった!

ミハイルはチョークを開けて、思いっきりロープを引いた!


ブルルルルッ! ブゥーーーーン!!


ようやくエンジンが掛かった


ミハイルはこの面倒くさいアクセスが意外と気に入っていた


数時間、草刈り作業をしているといつの間にかあたりは夕暮れ近くの時間になっていた

作業に夢中になってしまっていた

ふとあたりを見回すと、ひとりの女性がこちらに近づいてきた


幼なじみのベロニカだ


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