戦場のミハイル
第6章 ニコライ議員の私邸
新兵のガリーナ・ウワロナは近衛兵の部隊に配属されて一年が経った
彼女は前線で2年間、タンクの砲撃手として赴任していたが敵のゲリラ部隊との戦いで右半身を負傷してしまった
単身で戦闘車輌にしがみついた敵兵は徹甲弾でハッチをこじ開け、内部に手榴弾を投げ込んだのだ
まだ若く美しいガリーナだったが無惨にも半身を焼かれ、奇跡的に一命を取り留めた
敵兵は自身の身体ともども木っ端微塵になったが、ガリーナ含めて十数名が戦闘不能となり前線を離れざるを得なかった
瀕死のガリーナの身体をタンクから引きずり出してくれたのは見慣れぬ若い男性兵士だった
“こんな最前線に若い男が…?”
この時代、数が少ない男性は後方部帯や帝都防衛のほうへまわされがちだ
ガリーナのボロボロになった身体を、少年は瓦礫の中から引っ張り上げ、彼はやさしく抱きしめてくれたのだった
「もう、だいじょうぶだよ」
彼の声は落ち着いていた
ガリーナは応えることも出来ず、喉からはヒューヒューと空気が漏れるような音しか出せなかった
意識はあるが、身体が動かない
首がだらんと垂れ落ち、腕も動かない
下半身は感覚も無い
抱きしめてくれたものの、自分の身体はぶらぶらと投げ出されていた
鼻の嗅覚もバカになってしまっているが、強烈な火薬と油の匂いだけは覚えている
“……わたし、もうダメかな…?”
と思った
それと同時に
“若い男性に身体を密着させてるなんて、わたしヘンな匂いしてないかしら?”
と、くだらない事が頭をまわった
ガリーナの部隊はほぼ壊滅
他の小隊も似たようなものだった
ここの前線はもうダメだろう
2年間膠着状態が続いていた戦地だったが、すべてムダになってしまった
ガリーナは新兵として配属されて、2年で前線の任を解かれた