戦場のミハイル
第6章 ニコライ議員の私邸
料理長は恐縮しながら温めなおした試作品の料理を出した
少年のような美味しそうに頬張るミハイル・グリンカをガリーナは横目で眺めている
〈料理長め、気を遣って模様の入った主人向けの皿を出したな……〉
先に食べ終えたガリーナは空いた皿を持って立ち上がる
料理長は制止してガリーナの皿を受け取った
まるで〈俺が洗い場まで持っていくから、アンタはここに残っていてくれ〉と言わんばかりだ
料理長はそそくさと厨房から出て行ってしまった!
ガリーナは自分がこの場所を離れる機会を失ってしまった
そんな空気を読んでか、ミハイルはガリーナに声を掛けた
「ガリーナさん、座ったら?」
そう言われてしまうと逃げ出す訳にも行かなくなった
しぶしぶ席につく
「貴女は僕のことを警戒してるね、
あまり良い印象を持たれていないようだ」
「いえ、そのような事は…」
「この屋敷の主人が居てる時に僕が来ていたら、また印象が違っていたのかもしれないね
まぁ、逆にコーリャが戻って来れなくなったから、僕に依頼されたんだけど」
「……信頼……されているのですね、あなたを」
「ニコライの家には昔からの知り合いでね、
コーリャが小さい頃からよく知っているよ」
ガリーナはその言葉に違和感を覚える
〈こんな少年のような顔をして?
この男、いったい幾つなんだってんだ?〉
ガリーナは返事をせず、沈黙していた
ミハイルは言葉を繋げていく
「コーリャはもちろんマーニャを愛しているよ、別に僕がふたりに分け入ってるわけじゃないんだ……、ここの夫婦には色々あってね、
個人的な事なので詳細は差し控えるんだけど、
僕が少し手助けをしてる、って思ってくれたらいいのだけど……」
「大丈夫です、私は警護をするためにここに配置されています、個人の問題は私には関係ありませんので」
「そりゃあ、まぁ、そうなんだろうけど…
誤解の無いように伝えておくと、僕とガリーナさんの目的は同じだと思うよ、
彼らを守るためにここに来ている、
…それだけはわかって」
「もちろんです!」
ガリーナにはそう言うしかない
相手のほうが階級も上なのだ
彼の言葉は間男の言い訳にしか聞こえなかった……