戦場のミハイル
第6章 ニコライ議員の私邸
話題を変えたかったガリーナはソーフィアから聞いた話しを思い出した
「……中尉、戦場は長いのですか?」
「え? あぁ、そうだね
基本的には前線ばかりだよ、
近衛兵はほとんど無いんだ
砲撃士が主だね
〈プラストラー〉空間魔導師でも無いから操縦士にはなれなかったし」
「わ、私も砲撃士であります!
東部戦線ではタンク小隊でした!」
「東部か……、激戦区だね」
「はい……ここの警護期間を終えたら再び戦線へ赴くよう考えております!」
「……前線を希望しているの? なぜ?」
激しい戦場を求めている者は少ない
ミハイルの質問はもっともだ
「……わたしは……小さな貧困の村出身です、
このエカテリンブルクのような大都市には馴染めません
ですが、ここの人たちは本当に親切な人たちばかりです!
わたしが戦場に立って、この人たちを守りたい、と強く思います」
「……それ……本心?」
「……も、もちろんです!」
「ガリーナさん、自分自身の幸せとか、平和な暮らしとか求めないの?
恋人と街へ出掛けたいとか、綺麗な服を着たい、美味しいものを食べたいとかさ
自分の家族を持つ、てのも有ると思うんだけど……」
「……わたしは……戦場に居てるほうが長かったので……、ここの平和な暮らしは夢心地のような気分です
あまり実体感が無いのです」
ガリーナはここに住み込みで働く前のリハビリ生活をしていた小さなアパートメントを思い出していた
軍人関連の小さな狭い施設だった
趣味も飾り付けもしない無機質な部屋
通院と無機質な部屋を往復するだけの単調な生活
都会的なエカテリンブルクは街全体が活気に満ちているし、ここの住民はみな平和を謳歌しているようだ
ただ、自分はこの灰色のような暮らしは誰からも求められていないような、存在価値が無いように思えてしまう
それに引き換え、戦場は小隊が家族のようなものだ
甘えたの妹や、
エキセントリックな姉、
そして強く大きな母親
チームメイト皆が緊張と緩和の時間の中でお互いを支えている
充実していた
だが、
そのような小隊は全滅してしまった!
ガリーナは小隊の家族の顔を思い出し、初対面に近いミハイルの前で大粒の涙をポロポロと落とす
こ、こんなはずでは……!