魔法の玉
第4章 ―ブレイクタイム―
*
後輩の山内が、危篤の祖父の元へ向かっていった直後、
「エーンエーン! ドカンこわいぃー!」
花火の音とタメを張る泣き声が、耳にキーンときた。
隣のグループからだ。見ると母子ばかり。いわゆる、ママ友の集まりってヤツか。
エンエンと泣くのは、その中にいる小さい男の子だった。
「怖くないってば。花火、キラキラしててキレイでしょう?」
「やだ、こわいもん! エーンエーン!」
そばでヨシヨシする母親は、泣きわめく我が子に困り果てている。他の母親達と子供達も、「大丈夫だよ」「平気だよ」とあやすものの、なかなか泣き止まない。
花火の音って、内臓に響くぐらいデカいから、子供によっては怖くて怯えたりするよな。
そして関係ないのに、俺まで男の子をあやす方法を密かに考えだす。
俺のガキの頃は、カンチョーをしたりされたりすると、ゲラゲラと笑っていたが……さすがに四十過ぎの大人が、知らない子供とカンチョーをし合うわけにはいかないよな。他に何か方法は……。
ふと、あるものが目についた。同僚が持ってきたお面だ。場を盛り上げるために出店で買ったって話していたな。
……そうだ。
いいことを思いつくと、ニヤッとした。
「なぁ。お前のそれ、貸してくれないか?」
「あぁ、いいけど」
お礼を言ってから、お面を顔に付ける。それを、両手で覆って隠し、そのまま男の子に声をかけた。
「ボク。こっち見てごらん」
「ふえ?」
「いないいないー……ばぁーっ!」
両手を開き、意気揚々に晒した。が、
「ひっ……びえぇーーんっ!!」
げっ。余計に泣いてしまったぞ。
男の子はお面の俺から逃げ、母親の胸に飛び込んでもなお号泣。
「池辺。小さい子供に、『進撃の小人(こじん)』のエグい人食いキャラお面は怖いって。食われると思っちゃうだろ」
同僚からも呆れながら言われ、更に肩身を狭くする。
アニメなら何でも喜ぶと思ったが、とんだ大間違いだった。
「若くて可愛いママ達の前で、下手にいいとこ見せようとするから失敗すんだよ。四十代独身スケベ野郎」
「いっ……!」
酒の入った同僚の余計な一言。母親達からも笑われる始末。羞恥で素顔を晒せなくなった俺は、花火終了まで、エグいお面をつけたままでいた。
―おしまい―