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シャイニーストッキング

第3章 絡まるストッキング2 美冴

 2 電話

 わたしは自分の携帯電話番号をメモ用紙に書いてこっそりと健太に手渡したのだ。

『あっ、えっ、あ、蒼井さん、これって…』
 健太はわたしの手渡ししたメモの意味を理解したようで、一瞬にして昂ぶった目をしてきた。
 だが、上司であり、直の先輩であるゆかり部長に誘われて断り切れずにカラオケに連れて行かれたらしい。

 これはこれで仕方ないわ…
 この予想外の展開に残念な思いが湧いたのだが、仕方がなかった。
 だから、わたしは急ぎ帰宅をして、速攻でこの暴走気味の昂ぶりを治める為に自慰行為をするしかない、と覚悟を決めたのである。

 慣習化しちゃうかも…
 そんな恐れがあるのだが、今はこれしか鎮める方法がないのだ。

 困った、これからどうしたら…
 これからの事を考えると不安が先走り、涙がこみ上げてきてしまう。

 ブー、ブー、ブー…

 その時である、バックの中から携帯電話の着信のバイブレーションが震えてきたのだ。

 健太からなのか…
 わたしはバックから携帯電話を取り出してディスプレイを見る。

 あっ…
 それは、大原浩一本部長からであった。

 そういえば急いでいたから本部長に挨拶もせずに帰ってきてしまった…
 そしてこのディスプレイの表示を見て、張り詰めていた緊張感が崩れてしまう。

「…はい」
 涙声になってしまった。

「お、おい、美冴、大丈夫なのか…」
 この言葉に心のダムは一気に崩壊する。

「う、あ、ひ…ひん……」
 涙と嗚咽で言葉にならない。

「会計してたらもう…」
 大原本部長は会計を済ませて外に出たら既にわたしが帰ったのだと、ゆかり部長が言ってきたそうだ、しかも、酔ったみたいに調子悪そうだったと…

「私は途中からキミの、あ、美冴の不調の感じに気づいていたから…」
 こうして心配して電話をしてくれたのだ、と言ってきたのである。

「ひ、ひん……」
 その大原本部長の優しい言葉に一気に涙が溢れてしまい、返事すらできない。

「あの、三軒茶屋のいつものホテルで待っていてくれ…」
  そう言って電話を切ったのだ。

 嬉しかった
 わたしは孤独ではないのだ…
 嗚咽しながら実感をした。

 そして、確かに僅か一週間で三回目の利用となるのだから、あのホテルはすっかり、いつものホテルという事になってしまったのである。




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