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シャイニーストッキング

第10章 絡まるストッキング9      美冴とゆかり

 4 電話の理由

 実は、まだ、この電話の時点では魚市場には到着してもいない、いや、まだ、和哉に魚市場に行こうとも話してもいなかったのである。

 だが電話をしながら横目で和哉を確認すると…
 どうやらわたしの全てを察知してそして、自らをも自制する諦めの顔を、雰囲気を匂わせてきていたのだ。

 さすが、聡明な和哉だわ…
 逆に、わたしは感心し、そして微かにときめいてもいた。

 だが、これでいい…

 これが正解なのだ…
 そしてこのわたしの電話の会話を聞いて、和哉自身も全ての諦めがつく筈なのである。

『えっ、カニっ、大好物です』
 ゆかりさんはすかさずそう応えてきた。

 この携帯電話の会話は意外に傍らにいると聞こえてしまうモノなのである…
 だから敢えて和哉に聞こえるように自分自身のテンションを上げ気味にし、ゆかりさんのテンションも誘発させる。

「じゃあ、買って帰りますから、ゆかりさんのお宅に直行してもよろしいですか?」
『えっ、あ、は、はい、大丈夫ですよ』
 そうお友達であるゆかりさんのマンションに、自宅に敢えて行く、そしてそこで和哉とはお別れをする…
 それが自然に後腐れなくできる筈なのである。

「あ、はい、じゃあ、直行して伺いますね…
 ナビ検索で伺いますから住所教えてくれますかぁ」
 そしてゆかりさんもわたしに吊られたらしく、いつもよりかなりテンションが高い感じに聞こえてきたのだ。

『え…あ、はい…
 じゃあ、大田区の…………です』
 と、住所を伝えてきた。

 うわぁ、モロ、羽田エリアなんだ…

「あ、了解です、じゃあ、うーんと…
 だいたい夕方4時位に着くかなぁ?…
 ねぇ…
 あ、はい、うん。そのくらいに行きますねぇ…」

 と、わたしは隣の和哉に、なんとなくだが到着時間の想定を問いながら、返事をし、電話を切ったのである。

 これで帰りの既成事実が出来た…

 そして、これで、後腐れなく和哉とは別れられる、いや、解散できる…

 別に、今日で永遠のお別れではないのだから…

 これから新しい二人の関係が始まる…
 と、再確認した筈だから、和哉も問題はないはずであるのだ。

 わたしはそう想いながら、電話を切って和哉の顔を見る…
 すると、和哉は笑顔であった。

 さすが、和哉である…

 だから…

 だから、大好きなんだ…




 

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