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シャイニーストッキング

第14章 もつれるストッキング3          常務取締役大原浩一

85 秘書 松下律子(13 )

「…絶対にお食事だけですからねっ」
 敢えて念を押す。

「はぁい分かってますよぉ…
 じゃ入りましょうか」
 彼、青山一也はすっかり立ち直り、笑みを浮かべてエスコートしてくる。

 そして…
「予約してある青山です」
 なんとそう告げたのだ。

「え、予約って?」

「はい、自分の読みに自信がありますから、窓際の夜景の綺麗な席を予約しておいたんです」
 と、満面の笑みを浮かべて言ってきた。

「まぁ呆れた……
 もしわたしが来なかったり、頑なに断ったらどうしたの?」
 
「ま、その時は一人で食べますよ…
 それに松下さんは予想通りここに来たし、断らなかった…
 自分の読み通りということで…」

 わたしは呆れを通り越し、その
『わたしが断らなかった』という言葉に少しイラっとしてしまう…

「じゃ、やっぱり帰ろうかなぁ」

「あ、いや、すいません、調子に乗りましたぁ」
 
 やっぱり、なぜか彼の雰囲気に嫌悪感や不快感は感じられない…

「ま、いいか、今夜だけですからね」

「あ、あざっす、今夜は自分の歓迎会っていう事でぇ…」
 
本当に次から次へとそんな軽口を…
 だが、それだけアタマの回転が早いという事なのかもしれない。

 そしてもうひとつ…
 女、オンナの扱いが上手だという事でもあろう。

「さぁ、こちらのお席へ…」
 わたし達は窓際の席へと案内された。

「あら、素敵…」 
 真夏の、お盆明けの日本海側は、まだ完全には日没しておらず、少し先に見える日本海の水平線に、今、正に、夕陽か沈もうとしていたのだ。

「ちょうどナイスタイミングですねぇ」

「ええ、凄く綺麗だわ」

「この夕陽を松下さんと見れてよかった」
 するとすかさずそんなクサイ言葉を言ってくる。

 だがわたしは…
『あぁこの夕陽を彼と見たかったぁ…』
 と、秘かに思ってしまっていた。

「え、な、なに?」
 だから、そんな彼の言葉など、軽く流してしまう。

「どうせ、みんなに言ってるんでしょう」
 そして、そうも返していく。

「あ、え、そ、そんな事…ないですよぉ、いや、ないですから」
 彼は慌てて言い繕ってくるのだが、そのわたしの言葉は、ズバリ、図星だという反応を示してきた。

 そう、この彼は、この雰囲気の青山一也がモテないはずが無いだろうから…




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