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シャイニーストッキング

第14章 もつれるストッキング3          常務取締役大原浩一

86 秘書 松下律子(14)

「あらぁ、そうかしらぁ?
 わたしには女に対して自信満々に見えるけどぉ」

 そう、この彼が、この雰囲気の青山一也が、モテないはずが無いだろうから…

「え、そ、そんなぁ」

 まだこの時点では、どちらかと云えばわたしに主導権があるみたい…

「失礼します、ご注文は?」
 そしてこのタイミングでギャルソンがオーダーを訊きにきた。

「あ、え、えぇと…」
 わたし達はテーブルに着いてもずっとこんな、ある意味、まるでお互いを牽制し合っているみたいな感じの話しをしていたからメニュー等も満足には見てはいなかったのだが…
 実は、わたしがこのイタリアンレストランを選んだ時点で既にメニューを調べており、そして決めていたのだ。

「うん、あの、この、本日のシェフのスペシャリテのシーフードコースを……」
 と、わたしは告げて彼を見る。

「あ、うん、自分もそれで…」
 そう慌てて合わせてきた。

「お飲みものはどうされますか?」
 するとギャルソンが訊いてくる。

「うーん、わたしはお酒は…え、と、そうジンジャエールをください」

「え、飲まれない?」
 彼が訊いてきた。

「ええ、業務的には終わってはいますが、いちおう常務がホテルにチェックインするまでは待機状態なので…」
 
「あ、そうなんですかぁ?」

「はい、だからご遠慮なくどうぞ」

「え、あ、うん、じゃとりあえず辛口の白ワインをグラスで…」
 と、オーダーをした。

 実は待機状態なんて、ウソである。
 わたしはお酒が弱い、それにお酒は彼が戻ってきたら隣のバーで軽くカクテルでもと思っているから…
 それとあとひとつ理由がある。

 それは、もしもワインなんか飲んてほろ酔いになんかなってしまったら…
 この目の前にいる青山一也に口説き落とされてしまうかもという万が一の心配、いや、不安、いいや、不惑の想いがチラと心に過ぎったからでもあった。

 それに…

 まだ、かろうじて主導権はわたしが一歩リードをしてはいるのだが、この彼の軽々しいのだけれどもあまりそうとは思わせない軽妙なトーク術と、微かに漂ってくる過去に大恋愛をした元彼ともお互いに優秀な株式トレーダーであったという共通点からのどことなく同じニオイを感じてしまっていて…
 心が秘かに警戒警報を発してきているせいもあるから。

 

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