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シャイニーストッキング

第14章 もつれるストッキング3          常務取締役大原浩一

 89 秘書 松下律子(17)

「あら、ようやく日が沈んだのね」
 日本海の日没は東京よりゆっくりである。

「そうですね、東京よりは少し遅いですからね」
 
「でも本当に景色が綺麗だわぁ…」
 遠くの日本海の水平線の彼方にようやく夕陽が沈み、広がる空が全体的に紫色から漆黒へとグラデーションに変化をし…
 チラホラと街中の照明の灯りがキラキラと輝きを見せてきていた。

「あぁ、今日は佐渡ヶ島は見えないかぁ」
 
「え、佐渡ヶ島ガ見えるの?」

「はい、空気が澄んでいればバッチリ見えますよ、でも今日は全体的に水平線辺りが曇っているみたいですね」

「あら、残念だわ…」
 さすがに20階建てのホテルの最上階のレストランであるから、夜景は抜群に美しい。

「あの手前の川が信濃川ですよ」

「ふぅん、さすが詳しいのね」

「あ、はい、もうこっちに来て二年になりますからね」

 わたしは、よく女を口説くのにこの夜景を利用しているという意味での嫌味のつもりで言ったのだが、通じてはいないみたい…

「サラダでございます」
 するとギャルソンがサラダを運んできた。

「美味しそう」
 貝類や甘エビ等のマリネのサラダである。

「これ美味いですよ…あ…」

「あら、うふふ」
 彼、青山さんはまたチラとボロを出してしまう。

「ほら、もう何回もきているのは隠しようがないんだから、ヘタなウソつかないで、このお料理の解説でもしてもらおうかしらね」

「あ、はい…そうですね…
 それに本当に松下さんの事は口説き落とせなさそうですしね」
 半分苦笑いを浮かべながらそう呟く様に言ってくる。

「ええ、もちろん落ちるつもりは毛頭ありませんけど…」
 
「え、あ、はい…」

「でも青山さんの事は………嫌いではないわよ」
 
「え…」

 これも本音である…

 事実、わたしは少しずつ、この彼の軽さ、あかや、軽妙さが心地よく感じてきていたのであった。

 だが、口説き落とされるつもりは、そしてそういった意味での昂ぶりはない…

 ただ、彼、大原浩一常務を待つ時間潰しの相手としては…
 最高に楽しい相手といえる。



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