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第4章 合宿

安田は、それを聴いて、余計に泣いた。僕の態度がよそよそしいから不安だったんだと初めて知った。

安田は、身長は高いが、体を屈めて泣く姿が小さく見えた。僕のことをここまで思っていてくれたことは、正直信じられない思いだったが、それと同時に、いつも明るい笑顔で話し掛けてくれていたのに、よそよそしい態度を取り続けていたことを申し訳なく思った。

こんな時ドラマでは、綺麗なハンカチを渡すのが普通かもしれないが、現実にはそんなことはできないんだと思った。ハンカチなど、この場に持っていない。おそらく仮に持っていたとしても、女性に貸せるような綺麗な物を、自分が持っていることはないと思った。

一通り泣いた後、安田が目を擦りながら言った。

「田中くん、私のこと好き?」

僕は、

「うん!1年の時からずっと……。」

と言うと、安田は、

「じゃー、お願いがあるの!キス……、してくれないかな?田中くんは、これからも女子にモテると思うの!そんな時、私が焼きもち妬かなくて済むように……。田中くんからキスされたら、自信を持って落ち着いていられると思うの!」

安田は、涙を流した赤い目で僕を見つめると、目を閉じた。

僕は、彼女肩に手を置くと、薄く口紅を塗った唇を見つめ、彼女の唇に自分の唇を合わせた。

何秒経っただろうか?

もう、時間の感覚はなくなっていた。

目の前の現実が現実だとは到底思えなかった。こんな幸せなことがあるのだろうか?

同級生や先輩が、安田に告白してフラれたという話は、腐るほど聞いた。それがこの、何の辺鉄もない、僕のことが好きだという。

世の中は不思議だと思った。

僕も安田と同じように、このキスが自信になると思う。例え安田が男にチヤホヤされている現場に居合わせたとしても……。

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