でも、猫系彼氏に振り回されたい
第3章 かわいい子には旅をさせろ
「りょーちん、凌、ねーえ」
「ごめん、なに?」
洗い物をしていると、食卓から話しかけてくれる湊の声に気付けないことがある。
「俺、あと2日でいなくなります」
またか。と思う。
放浪癖があるから、慣れたものだ。と言いたいところだけれど、そんなことはない。
行かないで、とか、いやだ、と言える可愛さがあればよかったのに、嫌われたくないから
「そっか。わかった」
と、そっけなく返してしまう。
「え、寂しくないの」
トタトタと軽やかな足音を立てて、俺のほうまで湊が歩いてくる。
「寂しいよ、そりゃあ。でも、あれでしょ。仕事なんでしょ。仕方ないよ」
「個展するんだ。だから、2週間は留守にします」
湊なりに罪悪感でもあるのか、何気なく洗い物を手伝ってくれる。
なんでもっと早く言ってくれないの?
個展なら、前から決まってたんじゃないの?という言葉を心の底に沈める。
「個展かあ。湊はすごいよなあ」
「道楽だよ、道楽。なーんにも、すごくなんかない。ボクみたいなのは、社会のお荷物だよ、まったく」