夢魔
第2章 植えられた淫呪
ひと月前の夜。
妹の部屋を訪問したリュカは、突然ベッドの上にミーシャを倒した。
彼女の上に体重を掛けて跨った。
ミーシャは身動きが出来ず、息苦しくて声が出なかった。
手のひらの上の何かを転がしながら彼が話し始めた。
何でこんな事を、抗議しかけるミーシャに向かって。
『────お前が俺のことをどう見てるのか、知ってるよ』
あの時、彼の手の中で赤紫色に鈍く光っていた、六角錐の水晶。
それがあの夜、リュカが呪文のようなものを唱えたなり、ミーシャの胎内を目掛けて、吸い込まれるように消えた。
ミーシャが大声を出さないよう、彼はクッションで彼女の顔を塞ぎ、軽薄な声で呟いた。
『ミーシャは他と違う、良い子だ。 だからこれはお前へのご褒美だよ』
夜ごとミーシャがうなされ、酷く淫らな夢に悩まされる様になったのはそれからだ。
リュカを避けて自室に戻った彼女は細く息を吐く。
嫌悪もあらわに自分の下腹に手をあてた。
(お兄ちゃんはきっと、私の事を嫌いなんだ。 だけどあれは……ただの嫌がらせだったんだろうか?)
実際に触れているのかと錯覚しそうな、現実味のある夢。 ついひと月前までは知らなかった、淫らな行為の数々。
そしてミーシャがなによりも耐え難いこと。 それは、あんなもので恍惚と快感を貪っている、自分自身の姿だった。
知らない言葉で、知らない男性にもっとと媚びる、私も知らない私────
最近はその内容もどんどんエスカレートしている。
(こんな事が、いつまで続くんだろう?)
不安と恐怖でミーシャの胸は潰れそうだった。