夢魔
第3章 解呪
解呪。
それはかけられた術を元に戻すこと。
きっとこの自分の中の水晶さえ、無くなったら。 そしたら自分の生活は元に戻る。 ミーシャは考え、毎日街で一番大きな図書館に通い、その方法を調べた。
昨晩はある屋敷の主人に買われ、馬を打つ鞭で、何度も叩かれた。
その前はあばら家に連れ込まれて、複数人の男性に弄ばれた。
「精霊魔法……違う、これじゃない。 これは、何語だろう? まだ私には読めないな。 単語ぐらいなら…召喚……? ううん、これも違う」
分厚い書物を脇に何冊も置き、ミーシャは休む間もなくページをめくる。
他人に危害を加える類いのものは、魔法というより呪術と呼ばれる。
もちろん学校ではそんなものは教えない。 加えて、呪いの類の文献は、悪用の恐れがあるため、まだ年若いミーシャが探し出すことは難しかった。
新たに棚から引っ張り出した、何冊もの本を積み上げてはため息をつく。
そもそも誰にでも使えるわけでもない、あんなことを、お兄ちゃんはなぜ知ってるんだろう? ミーシャはため息混じりに疑問を持つのだった。
ミーシャはほんの少ししか睡眠を取らなくなった。 とうとう睡眠自体を恐れるようになった。
家に帰って自室の椅子に腰を掛け、自分の寝床を眺めた。
ベッドに入って横になりたいと思った。
「でも………」
眠りたくない─────
「ミーシャ? どうしたんだい。最近はどこか調子が悪そうだ」
ドアを細く空けてからコンコン、と二回ノックするのはミーシャの父親、ダリルの癖だった。
「お父さん」
「顔色がよくないな。 夕食も残してたろう」
魔法学者の父。
母さんに淹れてもらった、とダリルは両手に持っていた紅茶のカップの一つをミーシャに手渡した。
「ありがとう」
それに頷き、一人用のソファを運んできた父が彼女の向かい側に腰を掛ける。
ミルクがたっぷり入れられたカップに口をつけ、ミーシャはほっと息をついた。
両手を暖めるように包みながら、彼女がじっとダリルの顔を見詰めた。
(お父さんなら……)
「ん?」
(お父さんなら、呪いを解く方法を知っているかも知れない)
大丈夫か? ダリルがぼんやりとしている娘を心配そうに覗き込んだ。
父親の髪も瞳も闇の色。
こんな外見をしていても、お父さんは清涼な深緑色の心を持っている。