夢魔
第3章 解呪
ミーシャは父親が好きだった。
(こんな事をされたと知ったら、お父さんはがっかりするだろう。それなら、お兄ちゃんの名前を出さなければいい? )
ミーシャは頭の中で一番良いと思える方法を考えた。
「あの、お父さん……」
「なんだい? 言ってごらん」
先ほどからウロウロとなにか思い悩んでいる様子の娘が気になり、ダリルがすぐに先を促した。
ミーシャがおもむろに父に手渡したのは、毎朝シーツに少しずつ落ちているあの赤紫色の石の欠片だった。
捨ててしまいたかったがそうも出来ず、結局全て手元に取ってある。
「お父さん、これが何か分かる?」
それを手のひらに乗せ、それから指でつまんで灯りにかざしてしばらく観察していたダリルは眉を顰めてからミーシャに向き直った。
「こんなものをどこで? これはミーシャ、誰でも一朝一夕に作れるわけじゃないし、とても良くない物だよ。 禍々しく、淫の力に満ちている」
彼女は驚いて父親を見た。
何の情報もなく、こんな小指の爪先にも満たないもの。
それなのに悪いものだと判別が出来るお父さんはやっぱり凄い、とミーシャは思った。
そこで淡い期待を持って更に訊いてみた。
「悪いものを取り除くことは出来ないの?」
「出来ない事もないが……これらは破片みたいだが。 残りも全て揃っているのかい?」
「……多分、まだあると思うんだけど」
まさか自分の中に、とは言えなかった。