夢魔
第3章 解呪
ダリルが頬骨に指沿わせそれを抑える様にして注意深く口を開いた。
「もしも揃ったならまた話に来なさい。 私の専門外ではあるが、清めて月や清石の浄化を借りれば何とかなるかもしれない」
「欠片が揃わなきゃ駄目なの?」
「ここまで本来の形が損なわれていてはね。 それまでこんなものは傍に置かない事だよ。 何ならお父さんが預かっておこうか?」
「…………」
毎朝。
その効力を失ったためなのか、少しずつ少しずつ、水晶はミーシャの体から出ていく。
(揃えるには、あとどれだけかかるんだろう。 何度、夢を見ればいいんだろう?)
とても自分にはそれを待てるとは思えなかった。
────いっそ、話してしまおうか
(そしたらお父さんは、私とお兄ちゃんのどちらを信じるのかな?)
『リュカは優秀だわ。 お父様と同じ学校だなんて』
『同じではないよエイダ。 私と違い、特待生ときている』
兄が名門校に通う事が決まって喜んでいた両親のことを思い出した。
『お前は自慢の息子だ』
『……大袈裟だよ 二人共』
何年か前、そう言ってリュカの頭を撫でていた父の姿を思い出した。
彼女は兄の事を話せなかった。
「……お父さんが、持っていて欲しい」
ミーシャが椅子から立ち上がり、自分の書棚の一番上に置いてある箱の蓋を開いた。
その中にしまっていた、小さな巾着に入れた細かい破片をダリルに手渡す。
彼が軽く頷いたあと、空のカップと一緒に彼女からそれを受け取り戸口へと戻っていく。
「他に困った事があったらいつでも相談するんだよ」
「ありがとう……お父さん」
ミーシャがそう言うとダリルは頷きを返し静かにドアを閉めて出て行った。
結局全ては話せなかった。
でもその一部を初めて人に打ち明ける事ができた。
そして自分のことを心配してくれた。
リュカのように馬鹿にするわけでも軽蔑するわけでもなく。
それだけで、ミーシャはずいぶんと救われた気がした。
久しぶりに自然と欠伸をしそうになって手を口にあてた。
最近はずっと暗く怖い気持ちで夜を過ごしていたような気がする。
そんな時は、眠りの質も悪くなるとミーシャは聞いたことがあった。
(今晩はもしかして、夢を見なくて済むのかもしれない)
そんなささやかな彼女の願いもあった。