夢魔
第4章 漆黒の世界
暗闇。
吐息。
肌。
熱。
体液。
ああ。 私はやっと眠りにつけると思っていたのに。 ミーシャは結局その夜も、暗い諦めと絶望の手前に居た。
大人の、ある時は複数の相手に対し、ミーシャはいつも一人だった。
孤独とは尚更に人から正常な思考を奪うもの。
ミーシャが苦悶の表情を浮かべてベッドの中で身動ぎをした。
(いつもの悪夢。そしたら私はまた捕まって。 あの忌まわしい快楽に振り回される)
「もう、やめて………」
受け止めきれない苦悶に彼女の目尻から頬を幾筋もの涙が伝った。
自分にのしかかって来る体は重く、彼女は朦朧とした意識の中でそれを受け止めていた。
(抗えない)
汗ばんだ男の肌から、熱い胸板から、肩から、硬い腕から、その息遣いから、やすりのような指の腹から、投げやりな愛撫から、囁く声から、割り入る腰から、彼らの雄から。
「やめて……あ、ぁあ…」
ギッ、ギッ、ギッギッ、ギッ───
一定に、まれに不規則に軋んで揺れるベッド。
どうやら今晩はまだ自分の準備が出来ていなかったらしい。 とミーシャは感じた。
侵入してくるたび、ひりつく様に痛んだ。
きつく掴まれている手首も。
でも、すぐに慣らされる。 もうどこか諦めて彼女がその時を待つ。
クチュウ…
「……んくっ…う…」
ほら、こんな風に。
挿入が滑らかになるに従い男の動きも早くなる。
否応無しにそうなってしまう。
体が馴染んでしまう。
『ヤツらはそん時に、女の好みの外見になるそうだよ』
リュカの言葉。 けれどミーシャは自分が初恋もまだな事を思い出した。
「あ…ぁあ…いや…」
ミーシャはいつもとは少し違和感がある事に気付いた。
今居る場所や、匂い。
ここはいつも連れていかれる様な見知らぬ土地じゃない。そう思った。
(もしそうなら、助けて)
お父さん、お母さん。 彼らの優しい眼差しを思いミーシャは再び涙した。
(助けて──────)
無意識に彼女が手を伸ばし救いを求める。
ひたり、とその指先に汗ばんだ男の額を感じ、その妙に現実味を帯びた感触に、ミーシャが驚いて手を引っ込めた。
「………ミーシャ」
その声もまた、彼女にとっては馴染みのあるものだった。
ミーシャが固く閉じていた目をゆっくりと開く。
「お」