夢魔
第4章 漆黒の世界
お酒を飲みすぎたのかもしれない。
酔ってお母さんと間違えたのかもしれない。
それでも許されることではない。 けれどミーシャは何でも良かった。 ただなにかの『理由』が欲しかった。
「…………」
リュカは目線を外したまま何も言わなかった。
それが答えなのだと認めたミーシャの頬に一筋の涙が伝った。
「……そうじゃないなら、それなら、最初から……あれは、お父さんが全部?」
(あんな事を私にするために? 一か月前から? もっとずっと私が小さな頃から?)
リュカはそれにも答えずミーシャに何も聞かなかった。
むしろなんと言っていいか分からないという彼の様子だった。
「……ここ、前にうちの使用人が使ってた家だ。 うちからは離れてるし、今は空き家みたいになってるけど……俺も正直家には戻りたくないし、しばらくここで暮らそう…おいおい、もう少し元気んなったら、話してくれればいいから」
ミーシャも家に戻る気はとても起こらなかった。
(信じられる人なんてもういない。 家族以外の、お兄ちゃん以外の男性が……男がたまらなく怖い)
これ以上失いたくない。
─────なくしたくない
そんなミーシャの心理が彼女からリュカへの猜疑心に蓋をした。
「……ありが…とう」
「大事な妹だからな。 気が向いたら食え」
丸テーブルの上の食料をリュカが目線で指した。
それからリュカがぽんとミーシャの頭の上に手のひらを乗せ、ぎこちなく、なるべく柔らかく微笑んだ。