夢魔
第5章 永劫の楽天地
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「お兄ちゃん、何かあったの?」
窓の外の林の方をじっと眺めていたリュカが、背後から自分に掛けられた声に振り返った。
「ああ……体はもう平気?」
その言葉にミーシャが顔を赤らめた。
「……うん。 初めてだったからちょっとびっくりしたけど、今朝は近くの泉に水浴びに行ってきたし。 また誰か来た?」
「ミーシャが結界張ってくれてるお陰で問題ない。 昔っから、潜在能力では父さんや俺なんかよりお前が一番だったからな」
そんな風に褒められたので慣れない彼女が益々顔を赤くした。
「そんな事ないよ……お兄ちゃんが色々教えてくれたから」
「……まあ、強い余りに視え過ぎるってのも、考えものだけど」
再び外に視線を投げ、独り言のようにリュカが呟いた。
「え? 何か言った?」
「何も……おいで。 ミーシャ」
二人がここに住み始めてから木の葉の色が一度移り変わるほどの、いくらかの時が過ぎた。
リュカは彼女に食事を用意し、ゆっくりと休養を取らせた。 初めはふさぎ込みがちだったミーシャは精神的にも間もなく落ち着いた。
それと共に彼女の頬はふっくらと薔薇色を帯び、痩せた少女は急速に美しい娘へと変化していった。
彼女の変化はそれだけではない。
窓辺にもたれかかるリュカが組んでいた腕を解き、優しい笑みをミーシャに向けた。
「ミーシャも大人の女性になったんだな」
「うん……ねえ、お兄ちゃん」
ミーシャが目の前の、これも彼女に負けず劣らずの美しい青年を見詰めた。
高い鼻梁に、陽に透ける茶色がかった金色の眉とまつ毛。 彼を見るたびにミーシャの胸が高鳴る。
(これまでなんで気付かなかったのかな)
「……約束。 ちゃんと、そうなったらって」
彼女の髪に触れたリュカの手が、ミーシャの背中を通って腰に移動した。
そのまま出窓に腰を掛け自分の膝の上に乗せてから抱き寄せる。
軽い力でそうされただけでミーシャはまるで吸い寄せられるように彼の体に身を任せた。
「ミーシャ。 俺たちもっと家族になろう」
柔らかな彼女の絹髪に顔を埋め、角度を落としてミーシャの耳の上に唇を寄せる。